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ナイン・ストーリーズ 

ナイン・ストーリーズ

J.D.サリンジャー / ヴィレッジブックス


サリンジャーの「ナイン・ストーリーズ」を初めて読んだのは確か高校生の時だったと思う。それから何億光年もたってしまったが、図書館でシンプルなきれいな装丁の「ナイン・ストーリーズ」を見つけて、また翻訳があの柴田元幸氏だったのでなつかしさとあいまって借りて帰った。

9つの短編でなりたっている「ナイン・ストーリーズ」のなかで一番私が好きでまた一番有名な「バナナフィッシュ日和」を取り上げてみようと思う。

場所はフロリダ。休暇で妻のミュリエルとともにやってきたシーモアは戦争で精神に傷を負っているらしい。ミュリエルはミーハーなアッパーよろしく自分のことにしか関心がないようである。ここはミュリエルと彼女の母親との電話のシーンでうかがえる。ビーチで寝転がっているシーモアは仲良しの幼女シビルと浮き輪にのって「バナナフイッッュ」を探しに海へ繰り出す。

バナナフィッシュとはバナナがたくさん入っている穴の中へ泳いで入り豚のようにふるまいバナナを食べて穴から出られなくなる魚のことだ。

「それでどうなるの?」
「どうなるって何が?」
「ああ、バナナを食べすぎてバナナの穴から出られなくなったあとかい?」
「そう」とシビルが言った。
「うん、それが言いづらいんだけどね、シビル死んじゃうのさ」
「どうして?」とシビルは訊ねた。
「うん、バナナ熱にかかっちゃうんだ。恐ろしい病気なんだよ」
と二人は波の上でやりとりをかわす。
このまだ幼女のシビルとシーモアが対等に付き合い話しているところがとてもいい。
そして子供でもシビルは立派に女として嫉妬してみせるのである。

ラストはとても衝撃的。結末は覚えていたのにまた慄然としてしまった。

サリンジャーの小説の特徴は読んでいてくっきりと映像が浮かび上がるところだ。
金髪で黄色いセパレーツの水着を着たシビルと、浮き輪を持ってロイヤルブルーのトランクスをはいたシーモアが手をつないで海へ向かって歩いていくシーンなど、まるで映画の一シーンのように目の前に浮かんで見える。それだけにラストがリアリティをもって読むものの胸に迫ってくる。恐るべき筆力である。それを訳して再現した柴田元幸氏もお見事。

今、改めて9つの短編を読んでみると、どの作品にも戦争の影が色濃く反映している。高校生の時はそれには気がつかなかった。

今でも「キャッチャー・イン・ザ・ライ」は世界中で売れ続けているそうである。
人間にはサリンジャーなんか生涯読まない人、あるいは話題になったので読んだけれどさっぱり何が書いているかわからなかった人とサリンジャーを読んで彼の作品が好きな人とおおよそ2種類に分けられると思う。
そして私は後者である。

どちらがいいとかはいえないけれど後者のほうが色彩豊かな人生を送れそうな気がする。
Commented by minet at 2009-08-10 00:42 x
サリンジャーは若いうちに読んでおくと いいですね。
ある程度の年齢になってから読み返すと新たな感慨があります。

ライ麦畑 は村上春樹訳でも読みましたが 、ホールデンがただのわがままなガキと思えたのは何故だろう。

チャンドラーの[長いお別れ]は?
乾いた文体であってほしいのですが。
Commented by habezo at 2009-08-10 10:15
> minetさん、確かにサリンジャーは若いときに読むべきですね。

ライ麦畑で、私はカクテルの名前と「もっとドライにしてくれ」とはどういうことかを学びました(笑)。

村上春樹はサリンジャーにとても影響を受けていますね。改めて思いました。残念ながら彼とサリンジャーの違いはサリンジャーはノーベル賞なんか欲しがらなかったことです。そこで大きく差がついてしまいました。
by habezo | 2009-08-07 11:40 | 読書 | Trackback | Comments(2)