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これが原発だ カメラがとらえた被爆者

これが原発だ―カメラがとらえた被曝者 (岩波ジュニア新書)

樋口 健二 / 岩波書店


2011年の3月11日、私は職場でのお茶タイムでみんなと一緒にお茶を飲んで患者さんから頂いたシフォンケーキを食べていた。つけていたTVから津波の映像が流れる。うわ―一体これは何?見ているみんなで大騒ぎになった。ケーキがのどにつかえた。でもその時は日本でいったい何が起こっていたかよくわからなかったのだ。

あれから1年経とうとしている。そして私は多くの人と同じように何事もなかったようにかわりなく生きている。

去年、樋口健二氏のとても貴重なサイン入りの『これが原発だ』を頂いた。でも書評も書かずにそのままになっていた。今日はなんとか頑張って書評を書こうと思う。

樋口健二氏は四日市公害の取材等で知られるフォトジャーナリスト。地味でいながら地を這う様な緻密な仕事ぶりで知られる人。その地味な樋口氏に今回の3月11日で思わず脚光があたった。
皮肉にも続けている原発の取材から。

この「これが原発だ カメラがとらえた被爆者」
は岩波ジュニア新書ということで、とてもわかりやすく書かれている。そう中学生でもわかるように。

原発を動かす仕組みから原発を稼働するには沢山の労働者を必要とすること。そしてその多くが下請け労働者で被爆のことも何一つわからずに働いていること。知らずに危険な作業に従事して被爆し実際被爆すればどうなるか。被爆して電力会社相手に訴訟すればどのようなことになるか。そういったことのひとつひとつが執念ともいえる取材の力であきらかにされている。

そして一番の圧巻が、驚異的な粘り強さで実現した敦賀原発の原発内部撮影のくだりである。

ポケット線量計が渡され、カメラは一台、フイルムは1本だけ、写すところは会社が許可したところのみと言い渡される樋口氏。それだけでなくカメラもストロボも電力会社のものを使うように言われる。

カメラもストロボも汚染されればもちだし禁止になり廃棄処分になると言われて、改めて原子力はクリーンではなかったと思う樋口氏。

着ているものを脱いでパンツ一枚になりエアーロックをくぐり抜け『汚染区域」用の「赤服」を身につけ炉心部まで行きシャッターを押す。この辺りの描写は読んでいても息苦しくなる。

そして驚くのが日本の原子炉内部へカメラマンとして入ったのは樋口氏がはじめてだということだ。日本にはあんなに沢山カメラマンがいるというのに。

後、第4章のカメラは東南アジアへの章で、台湾やマレーシアで取材された原発のあまりにひどいありさまに打ちのめされる。

原子力は人間が制御出来ない危険なもの。しかしそれを作ってしまい、いまやなくすことも動かすこともままならない。そしてそれを稼働するにしろ廃炉するにしろ多くの底辺で危険な作業に従事する労働者を多数必要とする。

私たちの快適で豊かな生活は誰かの犠牲の上に成り立っている。
そして豊かであればあるほど、快適であればあるほど犠牲になる誰かの数は多いのである。

原発推進派の人も反原発の人も必読の書。

そして光のあたらない、声の聞こえてこない人々の声や姿を少しでも社会に伝えたい、そういう思いで極貧の中、仕事を続けて来た樋口健二氏に心から敬意を表します。
Commented by minet at 2012-03-11 20:38 x
植民主義、帝国主義の時代を経て 新たな奴隷制度を作り上げなければなりませんでした。スマートに形を変えて。

消費、電力、情報

もしかすると私たちは新しい奴隷そのものなのかも知れません。
Commented by habezo at 2012-03-12 18:57
minetさん

すごく昔に読んだのでうろ覚えなのですが「O嬢の物語」
のプロローグの中で確か奴隷達を解放したが元の生活の方がいいと
奴隷達が戻ってしまったというのがありました。

今の日本人達の生活を見ているとその奴隷達の話しを思い出してしまいます。

自分で思考したり哲学しないですむ「奴隷」というのを快適に思う人たちって存在していますね。
by habezo | 2012-03-08 14:21 | 読書 | Trackback | Comments(2)