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Che 美しい男

一九五二年六月十四日、土曜日、貧乏な僕は、二十四歳になった。ーチェ・ゲバラ モーターサイクル南米旅行日記より。

今日はエルネスト・チェ・ゲバラの誕生日だ。だから私の好きな彼のことを書こうと思う。

今年のカンヌの主演男優賞はベニチオ・デル・トロが取った。ソダーバーグの4時間半の大作『Che』でチェその人を演じて。とてもうれしく思う。ベニチオはチェほど男前ではないけれど、とてもセクシーな男優だ。『Che』は日本に来たなら、私の住む地方都市のへんこのおじさんの映画館で上映するに違いない。でもこの映画館は上映中の飲食は禁止なのである。4時間半も一体見る人はどうするのかな。休憩が入るとしても低血糖で誰かひっくり返るかもしれない、とそんなことを考えながらとにかく楽しみにしている。

チェのことを知るには23~24歳にかけて6歳年上の友人のアルベルトと南米を旅した『モーターサイクル南米旅行日記』がお勧めである。この日記とアルベルトの『トラベリングウイズゲバラ』をもとに映画『モーターサイクルダイアリーズ』が作られている。この映画も素敵であるが。

医学生であるチェは喘息の持病に苦しみながらも自分の目と耳と体全体で世界を知ろうとする。旅で困窮し絶食したり、危険な目に会いながらも、好奇心と探究心で前へ前へと進む。
この本の中でケッサクなのはバスクア(イースター)島へ行こうとする所。ーバスクア島!想像が上昇をやめてバスクア島の周りをぐるぐる回っている。「あそこでは、白人の恋人を持つというのは女たちにとって名誉なことなんだよ」。「あそこでは、働くなんて夢見たいな話さ、女たちが全部やってしまうんだから、男は食べて、寝て、それで女たちは満足なのさ」ーなーんてことを考えるのだがうまくいかず、チリヘ行こうと密航して捕まり、チェはトイレ掃除、アルベルトはコックの手伝いをさせられるところ。2回目の密航は失敗して(食べ散らかしたメロンの皮が海に漂っていて!)船から降ろされ、船員から「あんたら、間抜なことこの上ないねえ、馬鹿はこのへんにして、続きはあんたらのアホな国へ帰ってやったらどうだい」といわれる始末。
若いチェ達はめげることなく新たな地点を目指していく。モーターサイクルは壊れてしまい、ヒッチハイクで、歩いて、いかだで旅を続ける。貧乏な彼らを助けてくれるのは彼らよりも貧しいインディオだったり労働者だったりハンセン病の患者だったりだ。

パブロ・ネルーダの詩を暗誦しサッカーはコーチが出来るぐらいの腕前で歴史や芸術にも詳しく誰が見ても男前で、恵まれた家庭に育ち将来は医師になるはずだったチェ。アルベルトが言う所の「金持ち女のアレルギーを治療する医者」にならなかったのは、チェのフラットな視線である。貧しいもの、虐げられたものと同じ視線で物事を考えることの出来る能力だ。

チェが夢見た世界は人々が平等に富を分けることが出来る世界。しかしその世界は実現するとしたら心豊かに過ごせたとしてもあくまで「貧しく」平等な世界である。

チェが夢見た世界は今では遠く霞んでいる。世界では一握りの支配者層がビルダーバーグ会議とやらを開いてアメリカの副大統領を決めたり、原油の値段を決めたりしているらしい。TVで脳みそを破壊された一般大衆はそのことさえ知ろうとしないが。
しかし、彼ら世界支配者層の中で誰一人として愛されてリスペクトされているものはいない。
時空を超えてチェは人民から愛されてリスペクトされ続ける。高い志を貫いた生き方によって。

チェは放浪し自然に触れるだけで限りなく喜びが得られた。
もしかしてチェは革命ではなくて旅をし続けたかっただけなのかなと、ふと、私は思う。
by habezo | 2008-06-14 16:08 | 読書 | Trackback | Comments(0)